津軽三味線×紙芝居 伊藤今日子さん

津軽三味線を奏でながら、ドラマチックにストーリーを語る――。三味線紙芝居「満月紙芝居劇場」を旗揚げし、各地で公演活動をする伊藤今日子さん。三味線との出合い、紙芝居の演目「花子」への思いを聞きました。


子育てでの経験がきっかけ
2016年6月名古屋おやこセンター主催公演(東山荘)にて

華奢な体つきからは想像できないほどの力強い声の語り、カラフルな紙芝居、三味線の野太い音楽。1公演約1時間を一人でこなす伊藤今日子さんの「満月紙芝居劇場」は、古民家や町屋、蔵などを舞台に行われています。

伊藤さんの「満月紙芝居劇場」としての初演は2006年、天白区相生山の徳林寺の一角を借りて行った紙芝居劇でした。幼稚園に通っていた自身のお子さんのためにハーモニカを拭きながら読み聞かせをする中で「目覚めた」そう。

「得意の三味線を使った効果音の方がおもしろそうだし、演じることが好きだった昔を思い出してやってみたいなと。徳林寺で毎年春に行われる花まつりに合わせて舞台づくりから始めました。ライブでやることの良さ、難しさも教わることができた。そこでの公演をきっかけに活動の輪が広がり、今があるといっても過言ではないですね」(伊藤さん)

 

絵本作家の夫が描く紙芝居で
© Ito Hideo

伊藤さんの紙芝居に欠かせないのがこのカラフルな紙芝居。ライフワークとして演じている「花子」という演目に使用する紙芝居(写真)では、19のシーンを色鮮やかに表現しています。

この紙芝居を描いているのは、伊藤さんの夫で画家・絵本作家の伊藤秀男さん。「夫婦だからって甘えていてはいけないのですが(笑)。公演内容についても冷静にアドバイスをしてくれます。実は徳林寺での公演も、夫とご住職のご縁があって実現したものなんです」

紙芝居だから大人から子どもまで内容も理解しやすく、ストーリーに入りやすい。広めの会場では遠くからでも見えるよう、スクリーンに投影するなど工夫もしています。

 

2度の転機、人生の礎に

「明治生まれなのにピアノができる祖母、琴の師範だった母。母は現在88歳ですが、最近までボランティアで合唱に行くんだ、というほど今でも音楽を愛しているような人。そんな家庭に育ったので、幼いころから音楽に囲まれて暮らしていました」と生い立ちを語る伊藤さん。高校生まではクラシックピアノのレッスンをしていたそうですが、進学・就職でピアノからは遠のいてしまったそうです。

26歳の時、1度目の人生の転機となる出会いが訪れました。女性だけで歌舞伎を演じる「名古屋むすめ歌舞伎」への入門。「当時役者を募集していました。私は役者の基礎稽古として三味線もはじめました。三味線はそれまで経験はなかったのですが、人前に立って何かを演じたり声を出したりということは経験があり、好きだった。芸の基礎を教わりながら舞台に出るという暮らしが始まりました」

2度目の転機が訪れたのは、結婚して転居先の熱海でのこと、津軽三味線でした。「ふらっと出かけた祭りで津軽三味線の音に心が揺れました。言葉では言い表せない何か強い動揺があって。むすめ歌舞伎時代の経験を生かして津軽三味線を習いたいと思ったんですね。津軽三味線はもともと盲目の人が生活するために弾き始めたもので、力強さが特徴。それまでの三味線とは違う部分も多かったのですが、のめり込んでいきました」

 

実在した「花子」を題材に

伊藤さんのライフワークは「花子」という演目。花子は実在した人物で、明治から大正期にヨーロッパで活躍した日本人女優、踊り子。愛知県祖父江村(現・一宮市の尾西エリア)に生まれ、34歳で欧州へ渡り舞台女優として活躍します。彫刻家ロダンに注目されてモデルとなり、数多くの彫刻作品が残っています。その花子の波乱万丈の生涯を記した本「ロダンと花子」(澤田助太郎 著、中日出版)に感銘を受け、紙芝居劇としてオリジナルストーリーを2年かけて考案。上演開始から8年目を迎える来春、フランス・パリで公演も行います。

「花子の生誕150周年を記念してフランス公演ができないだろうか、とパリ在住の旧友に相談したところ、いろいろなご縁が重なって公演できることになりました。パリのあるホールが、『これはおもしろい!』と企画して下さることになり、招聘公演が実現する運びとなりました。異国でひたむきに生きる花子の姿は、現代の私たちの心を明るく照らしてくれるはずです」

8月下旬に東区の「文化のみち百花百草」で伊藤さんの「花子」の上演を予定。花子の人生観、三味線の演奏を楽しんでみませんか。

 


「花子、パリへゆく」プレ公演
■日時/8月26日(土)
午前の部11:00~、午後の部14:00~
■会場/文化のみち百花百草・蔵のギャラリー
■チケット/前売り2,800円、当日3,000円
■定員/20人
https://sites.google.com/a/shamisen.com/mangetsu/