真ちゅうを使った部品製造業、山本製作所(豊川市)は、猫の抗菌マスク掛け「しっぽ貸し手」(3,630円)を開発し、5月に販売しました。看護師の「マスクの保管に困る」の声から生まれたこのマスク掛けは、地元病院や施設などでも大好評に。
しっぽの部分でエレベーターのボタンなどを押せる「タッチレスツール」としても使用でき、一般客からの引き合いも。現在、品切れ状態となるなど、予想外の反響にうれしい悲鳴が上がっています。
10月には「しっぽ」シリーズ第2弾となる、マスク置き「しっぽ使っ手」が発売に。大ヒット商品を手掛けたのは、元看護師で町工場の女性社長である田中倫子さん。いったいどんな女性なのでしょう?
長年の技術と職人技を大事にしながら温もりあるモノづくりに取り組むバイタリティあふれる姿を紹介します。
真ちゅう製のマスク掛け「しっぽ貸し手」
|元看護師が町工場の社長に
山本製作所の田中倫子社長
元看護師だった田中倫子さんが山本製作所の3代目社長になったのは、なぜでしょうか。
インストラクターや看護師として働いていた倫子さんが若干20歳の時。先代の父親が病気で急死してしまいましたが、当時倫子さんは「会社がなくなるなんてありえない」と、さほど心配はしていませんでした。
父が他界した後は、当時の従業員がルーティンの仕事を引き継ぎ、倫子さんの母が仕事内容もわからないまま代表取締の名を継承。なんとか会社は続いていましたが、長年就業していた従業員が定年退職するのを機に、母は名ばかりの会社代表と経営に疑問を持ち、体力的にも限界と思って、会社をたたむことを決意しました。
2012年、倫子さんは「最後の親孝行をしよう」と、廃業する覚悟で代表取締役に就任したのでした。何もわからなかった倫子さんでしたが、工場のことを知るにつれ、先代たちが残してきたモノづくり・地元への愛情や、すばらしい技術力に感動。電線の基幹部品を多く扱っていることも知り、「人々のライフラインに関わる尊い技術、職人技を途絶えさせてはいけない。人のためになる仕事を続けたい」と思い、一念発起。「人のぬくもりを感じるモノづくり」を経営理念に掲げ、会社を残すことに決めました。
|コロナ禍でも新商品を開発
倫子さんにはいろいろな試練が待ち受けていました。日本を襲った大災害に端を発した原発問題で電力業界が厳しい状況に追い込まれていくのを目の当たりにした倫子さんは、「電力だけに頼っていては会社が危ない」と、それ以外の分野である自動車・住宅業界にも取引先を広げていきました。
そして、今春は新型コロナウイルス感染症が猛威をふるいました。仕事が激減する中「マスクの保管場所に困っている」という看護師仲間の声を受け、マスク掛けの企画・製造・販売を手掛けることに。自社が得意としていた“真ちゅう”の抗菌作用に着目し、会社にたびたび訪れ従業員を癒していた野良猫をヒントに、抗菌マスク掛け「しっぽ貸し手」を考案。技術力のある社員の協力により、商品化を実現させました。
マスクを引っ掛けて衛生的に保管
タッチレスツールとしても使用OK
会社にやって来る野良猫ちゃん
「病院だけでなく、日常でも使いたい」「食事や車内でマスクを外したいが置く場所に困る」といったニーズに対応するため、一般向けに「しっぽ貸し手」のネット販売を実施。マスコミでも大きく取り上げられ、国内外から注文が殺到しました。
|職人技なくしたくない!
「フックタイプではなく、置いて使えるものを作ってほしい」との声を受け、10月3日(土)からは卓上のマスク置き「しっぽ使っ手」(7,150円)を発売します。
「しっぽ使っ手」の最終工程はしっぽの曲げ加工など職人の手作業で行うため、一つ一つに造形美があります。高級感あるインテリアとしても楽しめ、レストランや式場、ホテルなどでの需要も見込んでいます。
「コロナ禍の影響で3~5年後には多くの中小企業がなくなってしまうかもしれない。機械化の進展も相まって職人が減れば、日本はかけがえのないものを失うことになる」と危機感を募らせる倫子さん。「作り手の思いがこめられた、ワクワクするものを届けたい。そのためには機械ではとても真似できない職人技が必要なんです。これからもメイドインジャパンを大切にモノづくりに精進していきたい」と熱く語っていました。
▼山本製作所
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