次世代の海と作り手を守るカチガワランドリー

私たちの生活が豊かで便利になる一方で、海の環境汚染は進んでいます。「自社のクリーニング事業が海を汚している」と気付き、コインランドリーやクリーニングなど事業全体で油を生分解する洗剤に切り替えたカチガワランドリーの代表取締役・東本猛(たけし)さんにクリーニング業だけにとどまらない、社会貢献活動やサスティナブルな取り組みについて伺いました。

 

洋服の作り手に認められるクリーニング店になる

元々、高校でラグビー部のコーチをしていた東本さんですが、奥様の家業を継ぐため、愛知県春日井市でクリーニングの仕事をスタートしました。最初は「どうしたらお客様の洗濯物をきれいにできるのか」を考え抜き、技術を高めることに集中していたそうです。

「粗利が低いのに、お客さんからは“買った状態に戻してほしい”と要望されるクリーニング業。ボタン割れ、セーターの縮みをクリアするのは当たり前として、新品同様の状態を求めるニーズに対して、僕たちはどう技術を高めていくかを考えた時に、洋服の作り手に認めてもらえるクリーニング店になる必要があると考えました」

一部のオーダースーツ店では、「形が崩れるし、生地が傷むからクリーニング店に出さないで」と言われることもあったそうです。だからこそ「服はどう作られているのか」を知るために国内産地に出向き、縫製工場で服の製造工程を見学。生地が縮む原理などを職人から学んだり、現場で使われているアイロンなどを採用したりしました。

さらに東本さんは、少ない点数で短時間に洗濯することが服を傷つけない究極の方法だと気付きます。

「うちは少ない点数を短い時間で洗い、ハンガーにかけて温度と風のみで乾かすようにしました。するとダメージが一般的なクリーニングの20分の1になります。トヨタ生産方式を参考に作業効率を上げながら、品質を高める仕組みに変えました」

元々“儲からない商売”であったクリーニング業ですが、小ロットで品質向上を目指すようになると顧客は仕上がりの違いに気付きます。その口コミ効果は絶大でした。

「例えば、洋服店や作り手が“この服はカチガワさんに出してね”と言ってくれるだけで、宣伝広告費はいらなくなりますよね。そのお金は、人を育てるための人件費に回しました。安い給料で良い物を作るのは無理なので。うちは業界平均年収の倍にできるよう、そのために何ができるかのアイデアを日々出し合っています」

 

 

「自分の仕事が海を汚している」という気付き

カチガワランドリーの技術が高まり、顧客からの信頼を得られるようになった反面、内心は洗剤に対する疑問があったと話す東本さん。環境に目を配るようになったのは、クリーニング業界を始めて間もない頃からでした。

「品物はきれいになるけれど洗濯機は汚れますよね。家庭用洗濯機も同じですが、洗濯槽にヘドロのような汚れが付きます。それを掃除するのは本当に大変です。こんな風に洗濯機が汚れるということは、自分たちの流している水が環境を汚しているのではと、業界に入って間もない頃から疑問を持っていました」

クリーニングとコインランドリーを併設するカチガワランドリー中切店

現代の日本においては、洗剤は身近な存在で当たり前にあるもの。しかし、東本さんは「なぜ洗剤を入れるのか?」という疑問も持っていたそうです。「納得いかないことはやりたくない」という考え方ゆえ、東本さんは洗剤に対して自ら徹底的に調べ始めます。

「汚れの元は、水と油です。汗を代表とする水汚れは水で落ちますが、皮脂のような油汚れは石油由来の石けんか合成洗剤の油で取るしかなく、油同士はくっついて“オイルボール”になります。それを油である洗剤ではがして洗濯槽に移し、洗濯槽クリーナーで汚れをはがした後、パイプから海や川に流れていく。これでは汚れを移動させているだけだと気付きました。その上、僕たちは洗えば洗うほど水を汚す罪を犯している、とまで思ってしまったんです」

 

そこで出合ったのが石油系の合成界面活性剤を使用せず、油を分解できる「海をまもる洗剤」でした。

私たちの街の下水処理の浄化は、微生物が行っています。しかし、その微生物も油の固まりは分解できず、そのまま海に流されるため汚染が広がってしまいます。例えば、マヨネーズ1杯を洗い流した水を魚が住める水質にするには、約3,900ℓの水が必要になると言われています。水で油を洗い流すことは環境に大きな影響を与えてしまうのです。

洗濯洗剤、食器洗剤、サラダ油では広がる口紅が、海をまもる洗剤(左上)だと細かく分解される

 

「海をまもる洗剤は、水でくるみながら油分を細かくしてスピーディに生分解するため、油分の再凝集(さいぎょうしゅう)(オイルボール化)を防ぎます。洗剤ごと水で流しても、油が細かくなっているため下水処理施設の微生物が分解しやすくなります。つまり、この洗剤を流すことで隣の家で流している油も分解できる可能性がある。だったらこれをクリーニング店で使うべきだと思いました」

実際に、海をまもる洗剤を家庭で使うと排水パイプの異臭や詰まりがなくなり、洗濯機の洗濯槽や排水パイプのクリーナーが不要になるのだとか。

 

代表取締役の東本猛さん

海をまもる洗剤の生分解度試験(DOC試験法)は、28日間で85%、42日で95%分解されるという結果でした。また、24時間閉塞パッチテストやスティンギングテストも一般的な試験の3倍となる検査人数で行い、肌の弱い人に対しても安全性が確認されています。

その上、コストが下がるというから驚きです。一般的な洗濯洗剤は1回につき約50円かかるのに対し、海をまもる洗剤は約28円。1本2,800円と割高に見えますが、1回の洗濯でティースプーン1杯分しか使わないため、家計にやさしいのも特徴です。「環境に良いから高い洗剤を使うのではなく、安い洗剤で環境に良い物を」と東本さんは訴えます。

「僕が目指すのは、消費者の市民革命です。我が家で実践しているのは、食事後に海をまもる洗剤をスプレーで皿にかけて新聞紙でふき取る習慣ですが、これを続けられる理由はお母さんが楽できるから。お母さんが喜ぶことを子どもたちがやっていたら環境にも良かっただけ。こういうことへの理解や共感を市民の皆さんに得てもらうために、洗剤の授業や洗濯のワークショップなどを行っています」

 

次世代を守るために、クリーニング店ができること

カチガワランドリー直営のクリーニング店とコインランドリー全店で海をまもる洗剤が使われており、全国のコインランドリーでも導入が進んでいます。

また、新たな取り組みとしてJR中央線・勝川駅の目の前にある駅前店を「スローファッション」を掲げるクリーニング店にリニューアルさせました。1階には、岐阜県多治見市の古着店「Chic…!」がセレクトしたヴィンテージの洋服やこだわり抜いたものづくりをしているメーカーの靴下などの商品が並び、2階には希少な国産ウール素材で、国内縫製のオーダースーツを注文できる空間が設けられています。


店の奥にはクリーニング設備が整っており、ここで依頼できるのはオーダースーツやカシミヤ素材、ハイブランド品など一般のクリーニング店で断られてしまいがちな高い技術が求められるアイテムのみです。

「コロナ禍をきっかけに、自分たちが発信したいことを伝え、作り手の“思い”が伝わる場にしようという考えから始まった取り組みです。良い物に触れ、良い物を長く着てほしいですし、どうやったら長く着られるかをお客様のライフスタイルに合わせて提案できるのはクリーニング店だからこそ」と駅前店長の金山容基(ようき)さんは話します。

勝川店の店長・金山さんは、ラグビーコーチ時代の教え子でもある

また、10月からはカチガワランドリーで古着を回収して、アップサイクルする取り組みを春日井市で始めるそうです。

「クリーニングを利用されるお客様は良い服をたくさん持っています。サイズが合わなくなったものや着なくなったけれど捨てられない服などを譲っていただき、ブランド品が着られない若い人に安く提供できる機会を作ろうとしています。若者にファストファッションだけでなく、古着でもいいから良い服を体験させるきっかけを与えてあげてほしいです。そして、売上の一部は子ども食堂などに寄付していきます」

 

最後に、東本さんはこう訴えます。

「ずっと洗剤を使いながら罪悪感がありました。でも今は、洗剤を流しても“良いことをしている”と思っています。SDGsが目指している2030年は、“これを超えると戻れない可能性がある”というギリギリの状況なんだと思います。子どもたちのために海や環境、そしてメイドインジャパンの技術を守っていきたいです」

 

クリーニング事業を通じて、環境活動だけでなく、次世代に残すべき作り手を支えているカチガワランドリー。駅前店はクリーニングに限らず、洋服を目当てに多くの人が訪れているそうです。ぜひ一度足を運んでみませんか。

 


▼カチガワランドリー

場所/愛知県春日井市松新町1-28(駅前店)
営業時間/11:00〜19:00
定休日/火曜・水曜・木曜
※クリーニング店やコインランドリーは春日井市、小牧市に数店舗あり

 

カチガワランドリー
http://www.kachigawa.com/

Save the Ocean 海をまもる洗剤
https://umi-mamoru.com/

 


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