一宮マテリアルドライブ~繊維とモーニングの街~

名古屋から車で30分の愛知県一宮市。日本有数の毛繊維の産地で、世界の有名メゾンに採用されるほどの高い技術を持っています。話題の「一宮モーニング」の背景にも繊維産業の発展が関わっていました。一宮の“マテリアル”にまつわる場所を巡ります。

 

日本有数の毛織物産地

尾張國の“一の宮”である「真清田(ますみだ)神社」があったことから、「いちのみや」と呼ばれるようになった一宮市。古くから繊維の街として栄え、江戸時代は織物を売買する「三八市」が大変なにぎわいでした。明治時代以降、織物生産は工業化。洋服地を中心に発展を遂げ、昭和初期には日本有数の毛織物の産地となりました。


一宮市の氏神「真清田神社」

繊維産業の全盛は昭和30年代。繊維工場は「のこぎり屋根」という三角屋根の建物で、8,000を超える数がありました。“織機を1度ガチャンとするだけで1万円儲かる”という意味で“ガチャマンの時代”と呼ばれました。

 

一宮モーニングは「おもてなし」

「モーニング文化」の原点は繊維業にあるとのことで、一宮モーニング協議会の会長の猪子誠兒(せいじ)さんと副会長の森隆彦さんに話を聞きました

当時の工場では「織機の音がうるさくて商談ができない」という理由から、喫茶店で話をすることが多く、繊維工場と共に喫茶店も増加。1日に何度も利用する常連がおり、店主がサービスで朝のコーヒーにゆで卵とピーナッツを付けたのがモーニングの始まりとされています。


会長の猪子さん(右)と副会長の森さん(左)

「一宮のモーニングは “お客さんが何度も来てくれてありがたい”という感謝の現れなんです」と話す森さん。その背景には、一宮への地元愛がありました。「一宮の人は“どこの出身?”と聞かれた時に、県外の人に伝わらないから“名古屋”と答える人も。故郷の名前を言えないのは残念ですよね。全国で場所が分かってもらえるくらい一宮をメジャーにしたい、という思いをずっと抱えていました」

今ではモーニング発祥の地として、知名度は全国区に。「一宮モーニング」は市内約100店舗の喫茶店が加盟しパンフレットを作成。ドリンク代だけで付くサービス品とは思えないほど豪華な朝食が食べられる店が掲載されています。

「最近では高齢化に伴い、喫茶店も減りつつある。けれど一宮を訪れて何軒もモーニング巡りする人もいます。これからは若い人にも喫茶店に慣れ親しんで欲しいです」

▼一宮モーニングマップ 詳細はこちら
http://ichinomiya-morning.com/?page_id=2510

 

安心野菜で彩り豊かなモーニング

モーニングと織物工業のルーツを知ると、食べたくなりますよね、噂のモーニングを。お勧めは、一宮市今伊勢町の「和カフェ&ギャラリー香彩(こうさい)」のモーニング。野菜たっぷりのピザトーストやスープ、サラダ、茶碗蒸しが食べられます。トーストは小倉など5種類から選べ、プラス100円でおにぎりに変更も可能。

野菜ソムリエの店主・今枝香代さんは、「自分が安心できるものを提供したい」と自家菜園や地元の農家さんから仕入れた旬の野菜を使用しています。モーニングは、8:00〜11:00まで。季節ごとに野菜が変わるメニューをぜひ味わってみて。


「のこぎり屋根」の名残が残る外観

▼和カフェ&ギャラリー香彩
場所/一宮市今伊勢町馬寄字呑光寺24
営業時間/8:00〜15:00
定休日/月曜・第3日曜(不定休あり)
TEL/0586-58-5472
http://ichinomiya-morning.com/?p=4940

 

 

新しさを創造する、マテリアルビル

JR尾張一宮駅から徒歩5分。古いタイルやゴシック調の窓が印象的な「Re-TAiL(リテイル)」は、一宮の繊維文化を集結させた複合施設です。

繊維組合のビルとして使われていましたが、事務所移転により取り壊し計画が浮上。何とか建物を守ろうと、リテイルの専務取締役の稀温(きおん)さんが地元の繊維会社20社の協力を得てイベントを企画。一宮の生地や素材の即売会は、関係者が驚くほどの大盛況に。「お客さんが生地を見て“かわいい”と話す姿を見て、メーカーの社長さんたちも楽しくなって。2回、3回と続けるうちに協力企業が増えました」

「価値があるのに捨てられてしまうものを救ったり、普通は小売してもらえない産地の素材を、このビルで扱うことに意味がある」と感じた稀温さん。2016年3月に一宮の企業と協働で「Re-TAiL(リテイル)」として法人化。残布や残糸の販売は、1階の「RRR MATERIAL PROJECT(アールマテリアルプロジェクト)」で引き継いでいます。

 

尾州地区の素材は、糸からデザインされ、織りから仕上げまで専門工場が協業しています。高品質で優れた安定性が特徴。世界のトップメゾンで認められ、毎年パリコレなどで多く使われています。ここでは、トップクラスの素材を手頃な卸値で購入できるのが魅力。(生地は1,000〜3,000円/m)「ファッション市場に使われる素材を、個人で触れる場はなかなか無いですよ。新しい物がどんどん入るので一期一会で選んでもらえたら」と稀温さん。今ではプロ・アマ問わず全国各地から訪れる人がいるそうです。

またリテイルには、「他に無いような作り手を厳選した」と稀温さんが太鼓判を押すアトリエが入居しています。

160年の歴史を誇るテキスタイルメーカー「中外国島株式会社」のオーダースーツショップ「中外国島CONCEPT TAILOR」。

 

レトロ&ヴィンテージ専門の古着修理店「Oh la la(オララ)」。この日は、裏地が擦り切れたウールコートをお直し。

 

今年3月にオープンしたばかりの「Aquellos Ojos Verdes BISHU(アケヨス オホス ヴェルデス ビシュウ)」は、シャツメインのファッションブランド。リテイル2階のアトリエ兼店舗では、BISHU ARCHIVE(ビシュウ アーカイブ)として尾州のデッドストック生地を中心としたオーダーシャツを提供しています。

「学生時代の友人は繊維業を営む家が多く、廃業してしまった現実も見てきた。漠然と一宮をどうにかしたい気持ちはありました」と語るのは、一宮出身の代表・永田典靖さん。「東京や海外で勤務して、改めて一宮の良さに気づいた。帰省した際にリテイルを訪れたことも、ブランドを立ち上げるきっかけになりました」

 

永田さんは、イタリア南部のテーラーで縫製技術を習得。袖をまつり縫いするなど昔ながらの手仕事が残るシャツを販売しています。既製品は18,000円〜、パターンオーダーは30,000円〜。アールマテリアルで生地を選んで作ることもできます。

「世界規模で見ても、ここまで上質な生地を作る産地はなかなか無い。これからは生地だけでなく、製品として尾州から世界へ発信していきたいです」

 

個性豊かなアトリエと、一宮で作られた生地や糸を手に取ることができるアールマテリアル。ぜひ一度訪れてみては。

▼Re-TaiL(リテイル)
場所/一宮市栄4-5-11
営業時間/10:00~18:00
定休日/月曜(祝日は営業)
営業時間は店舗によって異なります。詳しくは、ホームページで
http://re-tail.jp

 

 

新旧が融合した街、一宮

昭和の雰囲気が残るアーケード街

7月26日(木)から29日(日)まで「一宮七夕まつり」が開催されます。真清田神社から南へ伸びた本町商店街では、色鮮やかな吹き流しが飾られます。“ガチャマン時代”から続く、夏の風物詩です。

繊維産業の歴史をベースとし、新しい進化を遂げる「ものづくりの街」一宮市。ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

▼第63回おりもの感謝祭 一宮七夕まつり
場所/本町商店街・JR尾張一宮駅周辺
http://www.138ss.com/tanabata_bunner/index_tanabata.html