キッチン・時間・空間をシェアする かさでらのまち食堂

ひとつの空間を複数人で共有するシェアハウスやコワーキングスペースが東海地方でも浸透しています。

今回取材をしたのは「コワーキングキッチン」を運営する名古屋市南区の「かさでらのまち食堂」。複数のシェフがキッチンと空間を共有し、日替わりで国籍・ジャンルを問わないさまざまな料理が食べられる食堂です。

 

本笠寺の空きビルをリノベーション

名鉄本笠寺駅から徒歩1分。かつて、バーやスナックが入っていた複合ビルが「名古屋市商店街商業機能再生モデル事業」に選定され、そのワークショップに参加したのが建築家で笠寺出身の宮本久美子さん。自分が生まれ育った街を盛り上げたいという思いからでした。

 

「かさでらのまち食堂運営委員会」代表の宮本久美子さん

当初から食堂をつくるヴィジョンはあがっており、「ただの食堂ではなく日替わりシェフはどうか」というアイデアが膨らみ、どんな空間がフィットするのかを考え設計した宮本さん。

「ワークショップでは多くの人がいて、いろいろな意見を交わします。笠寺について昭和レトロと表す人もいれば、さみしいと言う人もいる。同じ事象でも別の表現をする人がいる表裏一体が面白い。だからそれを空間に表そうと思いました」と話します。

 

住宅と近い距離感の商店街だからこそ、家庭に置いているような大きなテーブルで食事を囲む。2店舗に分かれていたフロアをぶち抜いて一体の空間とし、湾曲したテーブルでつなぎました。

この食堂の面白さは、ひとつのテーブルを囲んで人が混ざり合うことだと話す宮本さん。取材時も向かいに座る人の会話に加わる光景が広がっていました。ひとつなぎのテーブルは程よい距離感で、座ってみると心地良さを実感します。「見知らぬ人同士のコミュニケーションが自然発生するんです。このテーブルを作って良かったと思う醍醐味ですね」

 

飲食店としての出発点に

食堂には16組のシェフが在籍しています。(2020年7月時点)年齢や国籍は異なり、ここに至る経緯もさまざま。動機は、自分の料理を食べてもらいたい人と将来的に店を始めたい人が半々の割合で、中には元客室乗務員で世界各国の料理を食べて学んだ経験を生かす人もいます。

シェフになる際、食品衛生管理など習得すべき知識はあるものの「味」についての基準を設けず、試食会で初めて知ることがほとんどなのだとか。

「ここに入ってくることは意欲が無いとできないですし、たとえ料理が地味であったとしても我々が決めることではないと思っています」と宮本さん。

しかし実際に店に立つと、思うように売上が上げられない場合も少なくありません。売上が落ちる人は、半年で自ら限界を悟って辞めてしまうことも。「たとえ辞めてしまってもチャレンジする場があるのと無いとでは違うはず。このように試せる土壌は飲食店にはありません。開業資金という負債を抱えてしまうので、それを減らすためという起業支援の目的もあります」

 

シェフは外注のように登録し、売上の3割を運営委員会に支払い、残り7割は手元に残る仕組みに。家賃・水道光熱費は、運営側が集めた3割の中から捻出しています。

「委員会はリスクを背負いますけど、今まで二の足を踏んでいたり、チャレンジしたいけど資金が無い人に活躍の場を提供することで、面白い人材を獲得できることに重きを置いています」

 

3種のあいがけカレーを堪能!

この日出店していたのは、スパイスカレーを提供する「TAYAA organic」(タヤオーガニック)。自宅でカレー作りにハマっていた加藤由起乃さんが、新聞でシェフ募集の記事を見つけて説明会に参加したのがきっかけ。

「店を出したい気持ちはあったけれど、間借りだと日数が多くて大変。でも月に一度(金・土or土・日)ならできそうだと思ったんです」。現在は、設計士の旦那さんとお母さんの3人で店を回しています。

右からナスのココナッツマサラ、鶏キーマ、豆の3種のあいがけカレー(1,000円)

毎月変わるカレーは、調味料やスパイスなどオーガニック素材が中心です。この日は、ナスのココナッツマサラ、鶏キーマ、豆の3種類のカレーのあいがけで、南インド風サラダ、赤玉ねぎのピクルスなど副菜が乗った一皿でした。カレーや副菜を混ぜながら食べるたびに味の変化を楽しめます。

 

日替わりデザート・チョコバナナブラウニー(300円)

人気店のため、日によっては行列ができることも。次回の出店は8月22日(土)、23日(日)です。

 

シェアをコンセプトにしたリノベビル

さらに、ビル全体を「かさでらのまちビル」としてコワーキングスペース、民泊、レンタルキッチン、寺子屋にリノベーションし、今年5月に開業しました。

3階のコワーキングスペースは、バーカウンターを残したつくりになっており、1日、月ぎめ、曜日占有型と使い方は自由自在。最大6人まで入居できます。A1サイズ出力ができるプリンターを共有できるのもうれしいポイント。

 

1階にある4人宿泊可能な一室

1階と2階は、ミニキッチン、トイレ、シャワーブースを完備した民泊「デラ stay」。地元の人が客間として利用するケースや小上がりを利用したヨガ合宿など多様な使い方ができる空間になっています。

 

1階には現代版寺子屋が。1対5の少人数で教えられ、誰もが先生になれる場所です。利用料は無料。現在は、絵画教室とジオラマ教室に子どもたちが集っているそう。

 

そして屋上では「かさでらミツバチプロジェクト」として養蜂が行われています。

 

ナゴヤNAT’sで取材した記事はこちら>>>
「商店街ミツバチプロジェクト」

https://nats.nagoya/?p=1931

 

サードプレイスがある街に暮らす

尾張四観音のひとつで、街の人に身近な存在の笠寺観音

南区の中でも高齢化率の高い笠寺地区。街の魅力について「日常があるところですかね。人とのコミュニケーションが密にできているし、昔から暮らす人もまちづくりに関心が高い。下町ならではの雰囲気が作用しているのかも」と宮本さん。「コロナの時期に改めて感じましたが、サードプレイスが豊かな方が街の魅力が増します。自宅の近くに第三の場所があると、自分の居場所が広がっていきますよね」

 

食堂としての機能だけでなく「食・学・働・泊のシェア」を起点とする場になったビルは、まさに街のサードプレイス。宮本さんは「自宅の拡張機能として使ってもらって、街の人が日常的に来てくれる場所として育んでいけたらと」と話していました。

 

もちろん地元の人だけに開かれた場ではありません。まずは、訪れるたびに違う店に来たような感覚になれる食堂をめがけて、笠寺を訪れてみてはいかがでしょうか。

 


かさでらのまち食堂

場所/名古屋市南区前浜通7-32-2

▼日替わりシェフのメニューが書かれたカレンダーは、ホームページ上に掲載

http://kasaderanomachi.com/ks/

 


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