「ココでトモダチになろう」農商工福で価値を創造するココトモファーム

愛知県犬山市の城下町で、米粉100%グルテンフリーのバームクーヘン「ココトモバウム」が人気です。こちらを運営するのは農福連携に取り組む企業・ココトモファームです。「ココでトモダチになろう」をキーワードとして、多様性のある職場をつくっています。代表の齋藤秀一さんに、ココトモファームが生まれた経緯やココトモバウムの誕生ストーリー、そして“誰も置いていかない”働き方について伺いました。

 

農福連携で、それぞれの課題解決が実現できるのでは

木曽川のほとりの小高い山の上に建てられた犬山城。国宝としても人気のスポットですが、数年前から城下町がインスタ映えの聖地として若い女性を中心ににぎわっています。

 

自然が豊かな犬山市で、齋藤さんが農業に出合ったのは奥様の実家である米農家がきっかけでした。後継者不足に悩む姿を目の当たりにし、農業に山積する課題に気付きました。まずは、農業に対する高齢化です。2018年の時点で農業者の平均年齢は約67歳。農業者人口の減少は続き、この先10年も高齢化は止まることはないといわれています。そして、農業を離れる人が増えたことをきっかけに耕作放棄地も増えている課題も同時に抱えています。


ココトモファーム代表の齋藤秀一さん

就労訓練施設を運営していた齋藤さんは、障がいのある人の「働く場が不足している」という課題も抱えていました。これらの課題を組み合わせることを思いつき、「農福連携」の取り組みを始めました。

犬山市の入鹿池ほとりに広がる約26,000坪の圃場で、ドローンなどITを駆使しながら米の栽培をスタート。「あいちのかおり」や「ゆめまつり」などの品種を作っています。障がいのある人にとって、農作業によるストレスの軽減など身体面・精神面どちらもプラスの効果が働くのだと実感があり、農作業と障がい福祉は相性が良いと気付きました。

その反面、実際に始めてみるとたくさんの問題点が生じました。まずは、農作物の栽培は素人が挑戦するのが難しく、人手がかかること。そして、農作物を栽培しても収益性が低く採算が合いません。また、障がいのある人、その家族にとっても「農業で就労したい」というニーズが少なかったそうです。

そこで考えたのが、農業と福祉に「商業」と「工業」を加える考え方です。一次産業の農業に留まらず、製品を加工・販売し、「農商工福」で収益を上げることを思いつきました。そこで誕生したのがココトモバウムでした。

 

 

「農商工福」で農作物を6次産業化


米粉100&ココトモバウム(ハードバウム・玄米)

ココトモバウムの6次産業化の流れは、まず犬山で収穫した米を粉に加工する工程から始まります。その米粉を使ってココトモバウムを製造し、犬山の城下町のショップを中心に販売するのです。米を作る「農業」×障がいのある人と働く「福祉」×製品を加工する「工業」+商品を販売する「商業」で6次産業化を実現しました。

「農業だけでは食べていけないけれど、米粉を使った製品を加工することで付加価値が高まりました。このように仕事のフィールドが増えると、障がいのある人の特性を生かせる場が増えることにつながり、適所で能力を伸ばすことができます。さらには障がい者が経済的に独り立ちできる“自立”も目指せるのです」

 

農業を起点とした、多様性のある雇用を生み出す


犬山城のふもとにある、ココトモファーム犬山城三之丸店

20年11月には、名鉄犬山口駅近くに本社兼工房直売所をオープン。そして、犬山城下町にシルバー人材センターとコラボした「ココトモファーム犬山城下町プラザ」、21年6月には犬山城三の丸武術稽古場跡に「ココトモファーム犬山城三之丸店」をオープンしました。


店内には、犬山祭の山車(やま)の一部をオブジェにした柱や昔の農具の展示も

ココトモファーム犬山城三之丸店の店内には、バウムクーヘン工房が併設されており、各種バウムクーヘンは試食もできます。ミニバウムとドリンクのセットや「ココトモプリン」などのスイーツ、そして犬山で栽培しているお米の販売もしています。無料休憩所も完備されているので、城下町歩きでひと休みするスポットとして人気です。


ココトモバウムは、優しい口どけの「ソフトバウム」と、噛むごとにカリっと香ばしい触感と風味が際立つ「ハードバウム」の2種類で、白米と玄米で異なる味わいを楽しめます。

ココトモバウムのおいしさの秘訣は、低温貯蔵によって新鮮な状態で保存した米を直製粉している点です。水分を含んだ日持ちをしない米粉「生米粉」を曳き立ての状態で使うことで、しっとり・もっちりの食感を楽しめるバウムクーヘンになりました。まさに、米農家だからこそ作れるスイーツです。

食べ歩きとインスタ映えで人気の「縁バウム」(1本500円)は、苺と檸檬の2種類の味が楽しめます。ネーミングには、「犬山との縁を結ぶ」という意味が込められています。

 

また、齋藤さんは自身の発達障害を公表し、『発達障害で、IT社長の僕』という本を出版しています。10代、20代の頃は転職を繰り返していたと話す齋藤さん。転機となったのは、パソコンショップでの販売の仕事でした。そこで能力を発揮して売上を伸ばし「自分の居場所を見つけられた」と感じたそうです。その後、障害児通所施設向け運営管理システムHUGを開発・販売する会社・株式会社ネットアーツを立ち上げ、愛知県西尾市で放課後デイサービスの施設を運営する株式会社まなぶを設立しました。

「みんなと同じことができなくてもいい。その人の能力で人に役立つことがあれば、それで生きていけばいいんです。長所と短所は表裏一体で、見方を変えればプラスになります。障がいではなく、“特性”を認めて生かしていきたいです」

 


ココトモファーム本社工房直売所でも、各種商品が購入可能

ココトモファームでは、個人の特性を生かしつつ、障がいのある人もない人もともに働き、同一労働同一賃金を実現しています。「誰もがお互いに支え合う形で一つのものができればいい」と話す齋藤さん。今後も雇用を広げていきつつ、観光農園の経営など新たな取り組みも始めていきたいと考えています。

「私たちが目指しているのは、農業を起点とした多様性のある雇用を生み出すこと。そして、それを持続可能な形で続けていくことです。農福連携は難しく、失敗してしまう場合も多い。ココトモファームの取り組みを成功事例、モデルケースとして参考にしてもらい、全国に広がっていけたらと思っています」

ココトモファームは、21年冬に覚王山駅前に新たに店舗をオープンする予定です。ぜひそちらも足を運んでみてくださいね。

 


▼ココトモファーム本社工房直売所

場所/愛知県犬山市橋爪石畑60-2
営業時間/10:00〜18:00
定休日/年中無休

ココトモファーム
https://www.cocotomo-farm.jp/

 


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