エシカルジュエリーで未来を拓く 「HASUNA」代表・白木夏子さん

「ジュエリーで世界を救いたい」。日本でエシカルの概念をいち早く発信した白木夏子さんは、エシカルジュエリーブランド「HASUNA(ハスナ)」を立ち上げた女性です。

子供の頃愛知県一宮市に住んでいた白木さんは、海外の過酷な労働状況を現地で目の当たりにした際、自分の便利な「消費生活」が途上国の貧困と結びついていることを知ったそうです。HASUNAを始めた経緯やエシカルの考え方との出合い、そして取り組みについて話をお聞きしました。

 

 

私たちの消費活動が、途上国の貧困につながっている

人や社会、環境に配慮した倫理的な行動を指す言葉「エシカル(Ethical)」は、近年とても身近なキーワードになりました。しかし、白木さんがHASUNAを立ち上げたのは2009年。当時の日本ではエシカルという言葉が一般的ではなく、社会貢献とものづくりを結び付けるビジネスも希少な時代でした。

その中でHASUNAは、ジュエリーの材料となる金や宝石をフェアトレードで輸入し、途上国の環境汚染や児童労働などの問題解決につながるよう取り組みを続けています。まず、白木さんの子ども時代、そしてHASUNAを始めたきっかけとなった海外経験について伺いました。

HASUNA l’uniqueコレクション。中米ベリーズで職人が研磨する貝殻を使用している

 

―――白木さんは、幼い頃からものづくりに興味があったのでしょうか?

ファッションの素材を作る繊維の街・愛知県一宮市出身なので、繊維工場に囲まれながら、生地の織機の音で目を覚ますような環境で育ちました。母は、元・ファッションデザイナーで洋服をたくさん作ってくれましたし、その影響もあってか小さい頃からものづくりは好きでした。中でも、布を選ぶのが大好きで、名古屋の大塚屋で小さいハギレを買っては、リカちゃん人形に巻き付けて遊んでいましたね。

 

―――学生時代にファッションの世界に興味を持ちながらも、海外に目を向けることになる白木さん。その経緯を教えてください。

学生時代にフォトジャーナリストの講演で紛争地域の劣悪な環境、動物などの密売や飢餓の状況について知る機会があり、同じ時代に起きている世界の悲惨な状況にショックを受けました。イギリスの大学に進学した後に訪れたインドでは、カースト制度にさえ属せない「アウトカースト」の存在を知ります。十分な教育を受けられず、奴隷制度の中で抜け出せない貧困の連鎖に苦しんでいる人たちがいることに衝撃を受けました。

 

―――自分の恵まれた生活と比べて、ショックを受けた側面もあったのでは。

インドで幼い子どもから大人まで働く鉱山を訪れた時のことです。そこではアウトカーストの方たちが、携帯電話やパソコン、カメラのレンズ、ジュエリーの原材料などを採掘していました。私たちが「便利で豊かな生活を送るために必要とされている物」が、途上国の貧困と密接に関わっていると痛感し、ショックを受けました。

そして、私たちは数万円を払ってそれらの商品を購入しているのに、彼らはなぜこんなに貧しい生活をしなければならないのか。日本に戻ってからリサーチを進めると、この状況はインドだけでなく、パキスタン、フィリピンなどのアジア各地、アフリカや中南米など世界中で起きていることだと分かりました。

デザイン性に優れたブライダルジュエリーも人気

―――私たちの消費行動が、海外の貧困につながっていると知ったんですね。

こういった労働環境は世界中のあちこちの鉱山で起きていることでした。ファッションの縫製工場など、他業界でも同様です。これらの課題を解決するのは途方もないことに感じましたが、まず私ができる第一歩として、ジュエリーブランドを立ち上げ、自分自身で現地へ行って原材料を仕入れ、直接やり取りをするフェアトレードの素材を使用した商品を作るしかないとHASUNAの立ち上げを決意しました。

 

ジュエリーを通じて、ストリートチルドレンに仕事をつくる

3年勤めていた金融会社を退職して、初めて訪れた国がルワンダでした。ストリートチルドレンとして路上生活をしていた青年たちが働く工房を訪れ、彼らが自立するために必要なのは「仕事をつくること」とする姿勢に白木さんは共感を覚え、動き出しました。

 

―――ルワンダでは、どんなことから始めたのでしょうか。

たんぱく源として牛が食されるルワンダでは、大量の牛の角が廃棄されているため、それらを活用した工芸品が作られています。牛の角で作られた美しいバングルを見て、ジュエリーの素材になると思い、ストリートチルドレンの青年たちに仕事を依頼しました。

しかし、最初は全くうまくいきませんでした。依頼したアクセサリーが100本届いても、商品になりそうな物は数本だけ。日本においては簡単に感じられる作業工程でも、何度も作り直してもらうなどの苦労はありましたね。

HASUNA HOPEコレクション。ルワンダの元ストリートチルドレンが研磨する牛の角を使用している

―――彼らとのコミュニケーションはうまくいったのでしょうか?

最初は、字が書けない、読めない彼らに正確に作業を依頼するのはとても大変でした。OKの商品には〇、作り直してもらう物には×を付けて国際郵便で返送したりして、何度もやり取りをしていましたね。

 

―――現地の人は、最初から心を開いてくれたのでしょうか?

鉱山で働いている人たちは皆さん優しくて、街を案内してくれるなど最初から迎え入れてくれることが多いです。自分たちが採掘した鉱物で何が作られているのかを知らない人も多いので、実際のジュエリーを見せて説明すると喜んでくれます。

 

―――20代の頃から世界中を旅してきた白木さん。アフリカや中東、中南米など多くの途上国や一般の人が旅行で足を運ばないような地域も訪れています。現地で危険な目にあった経験はありませんでしたか?

60カ国以上をバックバッカ―で旅をしてきたので、海外を訪れることに対する恐怖心はないです。ただ、中にはびっくりする出来事はあります。例えば、ペルーの地方の街で、ホテルもない真っ暗な場所で深夜バスを降ろされ、路上で野良犬に囲まれながら朝を待つ……という経験をしたり。怖かったというよりびっくりしましたね。

パキスタンの5,000メートル級の山の山頂から。この付近で採掘される宝石を取引している

―――白木さんが訪れた地域で、紛争なども起こっていたのでは。

ウガンダは、一部地域では紛争が起こっていました。ダイヤモンド取引が多いイスラエルも常に戦争状態で、何百発もミサイルが飛んできたり、家やビルにシェルターがあったりして、争いの最中なのだと痛感する機会がありました。

 

―――さまざまな国を訪れると、生活の違いを感じる機会が多いと思いますが、特にどこで感じますか。

私は、旅に行くと必ず市場に行きます。そこの国の人々がどのように暮らしているかがよく分かるので好きなんです。ルワンダは貧しいと言われていますが、市場の野菜がものすごく新鮮です。ルワンダは、よく雨が降り、作物が育ちやすい肥よくな土地が多いんです。かじったトマトをポイっと捨てても、そこから再びトマトが育ってしまうほど。そういう豊かさもあります。コーヒーもすごくおいしかったですね。

その反面、ルワンダは経済格差が非常に大きい国です。政府高官が富裕層であり、日常でもガバメントの人たちの力が強いと感じる機会が多いです。そういった日本との違いを感じる機会もあります。

 

―――起業家として活躍する一方、二児の母でもある白木さん。お子さんも海外に連れて行かれるのでしょうか?

上の子は小学3年生ですが、小学校に上がるまではいろいろな所に連れて行きました。スリランカやオランダなど10カ国くらいでしょうか。常識が身に付いていない年齢なので、何事にもあまり驚かず、現地の生活にすぐ馴染んでいました。ただ日本のご飯は恋しくなるみたいで、帰りの飛行機で日本食が恋しいと泣くこともありました。

 

エシカルな行動が、未来を照らす

白木さんにとってのエシカル。そして改めてHASUNAへの思いや社会で感じる課題について伺いました。

 

―――白木さんは、「エシカル」という言葉をいつ頃知ったのでしょうか?

私が知ったのは、2008年1月に雑誌『marie claire(マリ・クレール)』での「エシカルファッション特集」です。その時にエシカルの考え方を知り、この先の日本で絶対この言葉が必要になると感じました。それが最初のきっかけです。

パキスタン現地の女性たちにジュエリーの制作方法を指導している白木夏子さん(左)

―――そこからHASUNAを立ち上げますが、エシカルの考え方に対する理解を得るのは難しくなかったですか?

日本でエシカルが知られていない時期に始めたので、地道に講演などで話をしたり、新聞に記事を書いたりしていました。でも最近は、少しずつ知る人が増えてきたと思います。

 

―――エシカルという言葉が世間で認められてきたと白木さんが感じたのは、いつ頃でしょうか?

東日本大震災の後に「東北の食材や特産物を食べて、エシカル消費をしよう」と呼び掛けられるようになっていました。そして、2016年以降のSDGsによる動きは象徴的です。「12  つかう責任つくる責任」はエシカル消費に直結するキーワードなので、そこから一気にエシカルに対する認識が広がったように感じます。

 

―――白木さんは、日本で女性が活躍できる社会をつくるための取り組みもされています。

日本は、ジェンダーギャップ指数ランキング120位(2021年)で、男性と女性の格差が大きいことが問題になっています。暮らしの中で、そういった実感がないという人も多いかもしれません。しかし、なぜ先進国なのにランキング順位がそこまで低いかというと政治の世界や、取締役やマネージャー職など経済界における女性の少なさも要因の一つだと思います。女性の政治家やマネージャーを増やすことは大切だと思います。私たち一人一人ができるのは「がんばっている女性を応援すること」ですね。私自身も「NAGOYA WOMEN STARTUP LAB」で女性起業家のサポートを続けています。

 

―――最後に、HASUNAを通じて、白木さんが得られたことを教えてください。

最初は私が途上国で暮らす人たちをなんとかしようと考えていましたが、私自身が彼らからたくさんのパワーや勇気をもらっていることに気付きました。そういった国々では、日本にいると考えられないような環境です。しかし、キラキラした目で微笑んで近づいてきてくれる子どもたちに出会うと、こちらが元気をもらえ笑顔になりますね。

 

エシカルの概念が浸透していない頃からHASUNAを始め、日本や世界で道を切り拓いた白木さん。HASUNAのジュエリーは作り手の生活を支え、私たちの進むべき未来を照らすような存在ではないでしょうか。私たち一人一人も、自分ができる所からエシカルな行動を選択してみませんか。


 

★エシカルジュエリーHASUNA代表の白木夏子さんの講演と、ルワンダのランチを楽しむ「なごエコ」のイベントレポートは、こちら

>>>https://nats.nagoya/?p=4355

 

▼詳しくはこちら

HASUNA
https://hasuna.com/

 

▼名古屋でのHASUNA取扱いショップ

meets
https://8meets.jp/
 


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