「“可愛い”で地球を守る」をコンセプトに、海洋プラスチックをアップサイクルするアクセサリーブランド「sobolon(そぼろん)」は、岐阜県多治見市に暮らす幼なじみの4人で始めた取り組みです。
「かわいい」「楽しい」といったハッピーな感情を大切にしながら、環境を守る活動として注目を集めています。小学生の頃から環境問題に関心が強かったsobolon代表の山崎姫菜子さんに環境保全に結び付くビジネスを始めたきっかけや幼なじみであるメンバーへの思い、世の中に応援されるものづくりについて話を伺いました。
|小学校の授業で学んだ環境問題から生まれた罪悪感
一見、海洋プラスチックのゴミだったとは思えないほど色とりどりでオシャレなアクセサリー。2019年から始まったsobolonの活動の原点には、山崎さんが抱き続けた地球環境に対する思いがありました。
「小学校の授業で地球温暖化について学びました。枯渇する資源や生態系の問題、森林伐採でチンパンジーの住む場所がなくなっているなどの環境問題を知り、ものすごくショックを受けました。この世界はハッピーだけで成り立っていると思っていたから、人間社会の裏でネガティブな現実があることにビックリしました」
それを知って以来、「これを食べたら何が起きてしまうのか」と“裏側”を考えるようになり、申し訳なさを感じるようになってしまったそうです。
「それまでは当たり前に受けていた恵みも、何かの犠牲の上に成り立っているという罪悪感を常に持っていました。でも、大きすぎる問題だから子どもの自分ではどうしたらいいのか分からず、嫌だと思うことしかできない。ここで生きている以上、この事実からは逃れられないと感じながら過ごしていました」
どれだけ「変えたい」と思っていても、今の生活を変えるのは簡単なことではありません。「そんなことを気にしていたら生きていけないよ」と大人に言われることに疑問を感じながらも、ネガティブな思いばかりを抱えていても日々を楽しめないからと、山崎さんは環境に対する気持ちを飲み込んで過ごすようになっていきました。
|幼なじみ4人で“ずっといっしょにいたい”という思い
sobolon発足の起点となったのは、中学校での出会いでした。山崎さんが中学に上がる時に多治見市に転校して仲良くなったのが、現sobolonのメンバーの4人でした。登校から部活や塾まで、毎日ずっと一緒に過ごしていた幼なじみで「大人になったら一緒に仕事したい」と話していたほど。
sobolonのメンバー。今回インタビューを受けてくれたのは、リーダーとして活動する山崎姫菜子さん(左上)
しかし、進学・就職をしていく中で、物理的距離も生まれて生活が変わり、中学生の頃に思い描いた未来を実現することは甘くないのだと感じます。そして、山崎さん自身は東京で働いていましたが、体調を崩したことをきっかけに自分の本当にやりたいことを見つめ直しました。
「条件付きのやりたいことではなく、本当にやりたいことは何だろうと考えていました。私にあったのは、地球環境に対する活動をやらないままで人生を終われないという思いと、地元のみんなとずっと一緒にいたいという思い。これらを叶えるにはとりあえず地元に帰ろうと思って、何のあてもなく多治見に戻ることにしました」
不思議なことに、山崎さんが多治見に戻って数カ月で幼なじみの面々が転職などをきっかけに多治見に集まり、馴染みの4人がそろう生活が再び始まりました。
ちょうどそのタイミングで、多治見が一大産地である美濃焼タイルのアクセサリー作りの手伝いを頼まれ、初めてアクセサリーを作ることに。元々ものづくりやファッションが好きなメンバーだったこともあり、その楽しさから「自分たちのオリジナルブランドを作りたい」という思いが芽生えたそうです。
「ハンドメイドアクセサリーを作る人たちは世の中にたくさんいるから、他にはない要素が必要。そして、幼なじみ4人で始める活動が人のためになっていて、応援される状況じゃないと時間は確保できない。だから、私が抱いていた環境保全活動とアクセサリー作りを組み合わせて仕事にしよう。社会貢献できるアクセサリーブランドをやっていこうと方向性が固まりました」
デザインを考えている時に教えてもらったのは、海洋プラスチックの存在。実際に知多の海岸に拾いに行くとゴミの状況に驚くのと同時に、物として「かわいい」と感じ、アクセサリーにする発想が浮かび、2019年に海洋プラスチックを資源としたsobolonが始動しました。
|ポジティブなマインドで環境問題に向き合う
ブランド名の由来は、「みすぼらしいもの」の意味を持つ「そぼろ」という言葉です。
「価値がないと思われている物を自分たちが変えることで、かわいいアクセサリーになります。人も同じで、ある場所では活躍できなかったとしても、才能の生かし方や視点を変えたら誰にでも価値がある。海洋プラスチックの存在を教えてくれた友人と共通認識として持っていた思いと大事にしていた言葉“そぼろ”から名付けました」
福井県の海岸に漂着したゴミ。プラスチックを選別、洗浄してアクセサリーの材料にしている
アクセサリーの材料となる海洋プラスチックは、岐阜県の川から流れ着くゴミが集まる愛知県常滑市の海岸で拾っています。また、最近では福井県や石川県の海岸に他国からのゴミが多く漂着していると知り、足を運ぶようになっています。
海洋プラスチックを破砕して、海で拾った貝の欠片やシーグラス、ラメをレジンで固める1点物のハンドメイドアクセサリー。そのデザインは無限です。しかし、ブランドとしての価値を育てるのには苦労もあったそうです。
「自ら商売をしたことがないメンバーだから、物に価値をつけることが難しく、初めは数百円で売っていた時期もありました。それに、自分たちに自信がない状態で接客していても売れないんですよね。販売を通じて自信を持てるようになりヴィジョンが明確になっていくと、自分たちの楽しさやハッピーな気持ちが伝わって手に取ってくれる人が増えました」
現在は、イベント出店や全国の百貨店から声が掛かるほど人気のブランドに。デザインに惹かれて購入し、海洋プラスチックにまつわる環境課題を知るお客様もいるそうです。オンラインショップでは、コンセプトに共感をして買ってくれる人が多く、手紙やお礼のメッセージが届くこともあるのだとか。
時代の追い風もあり、さまざまなメディアに取り上げられています。Instagramを通じてsobolonのハッピーな取り組みを発信し続けているので、世代を越えて応援されています。現在は、海洋プラスチックを活用できる量を増やすために、モザイクアートの展示や万華鏡ワークショップも開催。今後は、海洋プラスチックのリサイクル率の高い製品の開発も見越しているそうです。
また、多治見駅の近くに工房兼ギャラリーを構え、いろいろな人が訪れる場所に来春にオープン予定で改装を進めています。
幼なじみでビジネスを続けていくことも大切にしている山崎さん。
「4人でいっしょに居られればいい、という思いが始まりだから、sobolonをビジネスとして考えきれていなかった時期もありました。でも、みんなで居続けるためには楽しいだけでもいけないし、私たち自身の成長も必要です。今は4人以外にも制作や経営面でスタッフとして入ってくれて、今後はビジネスとしても広げていけそうな目途が立っています」
小学生のときに環境問題を学び、辛くなるほどの罪悪感を持ってしまった山崎さんの考え方が、sobolonの原点。最後に、子ども時代の自分に対して山崎さんはこう話します。
「今は環境問題に対して罪悪感を持たなくていい、と思っているんですが、あの当時に苦しい気持ちを味わっていたからこそ、sobolonの大きな原動力になっています。環境に対して罪悪感を持ってしまう人たちに対してポジティブなアクションとして活動を提示できるのは、その気持ちを味わいきった自分だからこそできること。なので、あの頃の自分には、ちゃんと感じてくれてありがとうという気持ちですね」
海洋プラスチックゴミを回収し、アクセサリーとしてアップサイクルするだけでなく、環境課題を知るきっかけにもなるsobolonの活動。海にゴミを拾いに行くことはできなくても、sobolonのアクセサリーを手にしたり、応援することで、私たちも環境保全に結び付く働き掛けができます。贈り物にもぴったりなかわいいアクセサリーたち。ぜひsobolonのデザインや世界観を楽しんでみてください。
▼協力/sobolon
オンラインショップ
https://sobolon3695.thebase.in/
Instagram
@sobolon3695
★ナゴヤNAT’sのメールマガジンの登録はこちら!
毎月ナゴヤNAT’sの更新情報をお届けしています。