岐阜県大垣市を拠点に日本酒専門酒屋を営む「日本酒王子」にインタビュー。ワインのソムリエのように日本酒と食のマリアージュを提案します。起業のきっかけ、日本酒にかける想いを語ってくれました。
最近日本酒を飲みましたか? “冬はぬるめの燗酒で~”という光景は、最近はあまり見かけなくなってきているかもしれませんね。食の多様化に伴い日本酒の国内消費は減少し続けていますが、一方、海外では日本酒ブーム。清酒の輸出額は、10年前と比べると2倍近くに増加しています。
小規模の酒造に注目し、日本酒の楽しみ方の提案で業界を盛り上げていきたいと意気込むのが今日の主人公“日本酒王子”こと、株式会社さくら酒店の代表取締役社長の近藤悠一さん。共同経営者の駒澤健さんと共に日本酒専門の酒屋を経営。若干37歳ですが、飲食店で日本酒コラボイベントを開催したり、在日フランス大使館のパリ祭に携わるなど、いわゆる“酒屋”の枠組みを超えた活動を積極的に行っています。
|日本酒バーでのバイト、同志との出会い
近藤さんが最初に日本酒との関わりを深めたのは、金沢大学2年生のとき。留学費用を稼ごうとアルバイトで勤めた先が金沢市内の日本酒バーだったそうです。「金沢市片町に当時あった、石川県内の地酒約100種を扱うバーでした。“観光客も多いので勉強のために”と理由をつけては毎晩、飲んでいましたね(笑)」
同じ大学に通う同級生の駒澤さんとの運命の出会いもありました。ほぼ毎日一緒にいた駒澤さんも同じバーでアルバイトをすることに。近藤さんは4年の夏までにアルバイトを辞め、金沢大学の姉妹校にあたるニューヨーク州立大学バッファロー校へ留学。駒澤さんも同じ頃オーストラリアの大学へ渡ります。
「日本についていろいろ現地で聞かれても何も答えられない自分に歯がゆさを感じました。日本の文化を勉強しなおし、きちんと伝えられるようになりたいと考えるようになりました。帰国後に駒澤と再会し、日本文化で最も愛する日本酒を仕事にしようと意気投合。期限を決めて修行をした後、10年後に一緒に会社を立ち上げようと約束しました」
|輸出、食とのマリアージュを提案
もともと実家が酒屋なわけでもなく、ましてや酒蔵に勤めた経験があるわけでもない二人。大学卒業後、近藤さんは金融系の会社へ就職し営業力を磨き、駒澤さんは海外での修行のため香港へ。さらに数年後、近藤さんは大阪へ、駒澤さんは東京へ行き、それぞれが酒屋で武者修行を始めました。会社を設立したのは約束の年より1年早い2013年。通販と配達専門の日本酒酒屋としてさくら酒店を立ち上げます。
気になる取り扱い銘柄はというと、岐阜県の酒蔵5つを含む全国約50の酒蔵の500~600種(年間)。「小規模でも想いをもって造っている酒蔵」をセレクトし、販売しています。取引先は…
・岐阜県美濃加茂市【御代櫻醸造】
・宮城県大崎市【新澤醸造店】
・三重県鈴鹿市【清水清三郎商店】
・高知県香美市【アリサワ】
・山口県萩市【澄川酒造場】など
リクエストがあればそれにも応じて仕入れます。駒澤さんは東京を拠点にした営業や輸出の業務。近藤さんは大垣を拠点に、岐阜・名古屋の飲食店への配達のほか、「食事とのマリアージュ」の提案として、フレンチや和食の飲食店で日本酒イベントを開催しています。
「私が修行していた大阪の『山中酒の店』という酒屋は飲食業も展開、一時は飲食店でホールスタッフを担当していました。そこでの経験を生かしイベントを行うようになりました。フランス料理には普通はワインですが、一皿ごとに日本酒を提案。その場の雰囲気やお客さまの食べる様子を見ながら予定とは違う日本酒を提供することもしばしばあります。ゆっくりと食事と日本酒を味わいながら、日本の良さに気づいてほしい、そんな想いです。意外と女性の参加者も多いですよ」(近藤さん)
また、マリアージュの提案は通販での購入者への送付状にも含まれます。SAKEシートと呼ばれる商品紹介シートには、酒蔵・商品の特徴に加え、どんな食事とマッチするかが細かく書かれています。これも近藤さんと駒澤さんが二人で制作しています。
「日本酒は長く愛されてきた伝統文化の一つ。和食と馴染み、酒蔵ごとに特徴があり、奥深さがある。酒の銘柄が入った前掛けを身に付けているのは、造り手の思いを代弁できるような関係を酒蔵と築き、一緒に日本酒を盛り上げたいという気持ちから。世界に誇る日本酒の魅力に気づいてもらえるように、まだ僕らも出会っていない日本酒を探して、皆さんに紹介していきたいですね」
日本酒は古来から「百薬の長」とも呼ばれてきました。日本酒で体を温めて、和食を食べて、もうしばらく続きそうな寒さを乗り切ってみませんか。
●さくら酒店
http://www.sakurasakeshop.com/
★4月29日、岐阜駅で日本酒イベント
4月には、近藤さんらが主催する日本酒イベント「岐阜の地酒で乾杯2018」を開催。今年で4回目、JR岐阜駅前の広場で開催され、岐阜県内の酒蔵が造る日本酒を飲み比べたり、マリアージュを考えて作られたフードを味わったりと、岐阜の地酒の魅力を再発見できます。詳細は4月以降にこのサイトでも紹介しますのでお待ちくださいね。