西尾市出身、名古屋を中心に活躍する能楽観世流太鼓 加藤洋輝さんに伝統芸能の継承者としての思いや日頃の活動についてインタビュー。太鼓(たいこ)という和楽器の魅力も紹介します。
|能楽と出合ったのは大学時代
加藤さんが能楽と出合ったのは学生時代。名古屋大学にある能楽サークルに入部したのがはじめです。「『竹生島』という能の演目を間近で見て、その迫力に魅了されました。純粋にカッコイイなと。農学部に在籍し、植物の開花のメカニズムを解明する研究をしていましたが、農学よりも能楽にのめりこんでいきました」と加藤さん。「当時から太鼓だった」そうですが、理由は「同級生の囃子方に太鼓方がいなかったので」と特にこだわりはなかったとか。東海地区の能楽普及に尽力した故助川龍夫先生に師事していました。
大学卒業後は国立能楽堂の研修制度に参加。仕事として能楽師を目指すことになります。「代々続く能楽の家で、子どもの頃から厳しく仕込まれてきた人に比べると大きな開きがあります。研修は6年と長く、最初は7人ほどいた研修生も最後は3人になっていました。サークルでの活動歴があったとはいえ、基礎から学び直しました」
今は愛知県を中心に能舞台への出演や趣味で習う人に太鼓のお稽古をつける日々を送っています。
|江戸期から使われている胴
能楽の太鼓は、直径約35cm、高さ15cmほど。少し角度がついた専用台に乗せて演奏されます。太鼓の打面には牛の革、中央には小さく鹿の革が貼ってあります。鹿革の部分のみを打って太鼓を鳴らすのが基本。バチはヒノキが材料です。
また、上下の打面に挟まれたケヤキの胴は、元文元(1736)年!につくられたものも。鳴子など音にちなんだ蒔絵が施されています。革と胴は「調べ」と呼ばれる橙の麻ひもで組み合わされています。締めるのがかなり力作業で、演目によって締め具合を調整するそうです。鹿の革は2年程度、牛の革は50年、胴は約300年と、使える期間はそれぞれ。セルフメンテナンスが欠かせません。
|能舞台では物語の終盤に登場
室町時代初期に大成され今日に至る日本の伝統演劇の一つ、能楽。謡、舞、囃子が一体になり演じられます。 囃子とは笛、小鼓、大鼓(おおつづみ)、太鼓による演奏で、物語の情景や登場人物の感情を表現します。
能の曲には、小鼓・大鼓・笛のみで演奏される「大小物」と、太鼓が加わる「太鼓物」とがありますが、太鼓は終始演奏されることはなく、物語のクライマックスに登場します。リズミカルで華やかな太鼓の音色と気迫のこもった掛け声で物語を盛り上げます。
「能は言葉が分かりにくいといわれますが囃子の雰囲気や演者の気迫は言葉が分からなくても感じていただけると思います。能全体で250曲ほど現在も残っていますが、太鼓物はその内の約2/3。神や妖怪、植物の精など、人間以外のものが登場するシーン、前半は人間として登場していたのに、後半は妖怪になって登場するといったシーンなどを太鼓で盛り上げます」
|今春から能楽の体験講座
能楽の普及のために、今春から体験講座も始めた加藤さん。次回は6月19日(月)15:00~、千種区池下の三喜神社で開催されます。講座は、観世流シテ方の武田友志(ともゆき)さんと一緒に行っています。すり足で歩く練習や太鼓の打ち方、加藤さん武田さんによる能の一部の実演ありと、充実の内容です。
「尾張地区には山車が曳き回すような伝統的な祭りが今も残っています。そこで太鼓と出合って、習いに来てくれるお子さんもいらっしゃいます。伝統文化は知られてないことが多いので、こんなにおもしろいものが身近にあることを知ってほしい。次の世代への橋渡しとしても、今の活動を続けていきたいですね」
●取材・撮影協力/名古屋能楽堂
かとうひろき/1974年西尾市生まれ。名古屋大学卒業後、第6期能楽(三役)研修へ。太鼓方・観世流 十六世宗家観世元信に師事。2001年3月、舞囃子「善界」、能「猩々」で初舞台。
ブログ「ばちあたり日記」http://bachi.at.webry.info/
twitterアカウント @taiko_no_kato
【加藤さん出演予定】
6月11日(日)名古屋観世会定例公演能 能「杜若」(かきつばた)
6月18日(日)名古屋宝生会定式能 能「邯鄲」(かんたん) いずれも名古屋能楽堂で開催
■体験講座について
参加希望の旨を電話またはメールで事前に連絡を。参加費は一人1000円。
080-3634-0383(加藤)